自動車が売れない。
2008年11月、アメリカの自動車販売は前年同月比40%も減少した。ヨーロッパでも日本でも3割減だ。その上、1年間で20%の円高だ。ついこのあいだまで日本経済の優等生だった自動車産業も、あっというまにピンチに直面している。
たとえば、ホンダは海外販売が86%を占める。売上が3割減った上に、稼いだドルを円に換えると、2割も収入が減ってしまうのだから、懐に入ってくる収入は6割になってしまうのだ。どんな経営者を連れてきても、たった1年という短い時間のこれほどの変化に対応できる会社はない。過去数年間の利益があっというまに吹き飛んでしまう。
ほんの少し前、日本の自動車メーカーは、なにかと低調な日本企業の中で、例外的に売上も利益も伸ばしていたのに。
自動車がこんなに急に売れなくなったというのは、人類の歴史の中で初めてのことなんじゃないだろうか。
いま、目の前に新しい世界同時不況という歴史的大事件が起きている。ニュートンが万有引力を発見したり、ワットが蒸気機関を発明したり、リンカーンが暗殺されたり、ヒロシマに原子爆弾が投下されたり、アポロ11号が月面に着陸してアームストロング船長が月の上を歩いたり、ワールドトレードセンターに旅客機が突っ込んでビルごと崩れてしまったりという、それまでにだれひとり見聞きしたことのないような未体験のことが起きているのだ。
世界中が一度に不況に突入している。製品を買ってくれる人のおサイフの中身が寂しくなって不安になり、お金を使わずにとって置こうと思うから、ものは益々売れずに景気がさらに悪くなる。こうなると八方塞がりで国内で売れないから外国でがんばろうというわけにもいかず、2兆円も営業利益があったトヨタですら、あっというまに業績予想は赤字になってしまった。売れない上に、売上のほとんどを占める輸出で得たドルが、円にすると2割も目減りしてしまうのだからひとたまりもない。もともと売上高に対して利益は8%くらいしかないのだから、同じだけ売れていたとしても、為替変動だけで利益は吹っ飛んでしまうというのに、頼みの売上まで止まってしまったのだから。
売上が伸びないとなれば、企業の努力としては使うお金を減らすしかない。
かくて影響はすぐに労働者の雇用にまで及ぶ。派遣労働者や期間工と呼ばれる臨時雇いの労働者がどんどん失業する。正社員だって賃金カット、この先、安全であるとは限らない。
「こんな不景気の世の中に放り出すなんて、ひどいじゃないか、大会社なんだから雇ってくれよ」
そういいたいが、無理だ。
大会社ならつぶれないというのは、前世紀の話なのだ。これだけ世界の経済が全体で一緒に動いていると、一つの会社の努力で、地球規模で起きる荒波を安全に乗り切るなんてことはできないのだ。
なにしろ、自分に何も問題がなく、がんばって去年と同じだけ作って売ったとしても、懐に入るお金が去年よりも2割も少なくなってしまったわけだ。だれがどうしたら防ぐことができるというもんじゃない。
経営が苦しくて解雇する企業を「ひどい」と非難している場合ではない。クビになったやつはどこか努力が足りなかったのだと「自己責任」を追求している場合でもない。
過去の経験や知識が役に立たない、「だれも経験したことのない」「だれも答を知らない」危機を前にして、だれかを指さす暇があったら、一緒になって困難を乗り切ろうと、声を掛け、力を合わせなければならない。
人に任せている場合じゃない。地球人全員の自分の問題だ。
阿川 大樹