再連載バンクーバー歴史散歩 -第三回 PNEことはじめ-

 英語のフェア(Fair)という言葉は極めて訳しにくい。フェアは中世の教会を中心とした町をあげての祭りで、特定の聖人の日に行うものらしい。19世紀になってアメリカのニュー・イングランド各地で行われたフェアはヨーロッパと違う形態をとるようになった。町や村でとれた農産物の出来を競い、牛や豚などの家畜の品評会と、地場産業や商品が参加して展示会を行い、人出をあてこむ屋台や見せ物、メリーゴーランドのような乗り物が一緒になって夏か秋に開催されるのがフェアである。カントリーフェアやステートフェアがそれである。「共進会」と辞書に載っているが、現代の私たちには共進会自体がどんな形態のものであったか知らないし、もう1つの訳語「博覧会」はフェアより大規模なExpositionのほうがふさわしいような気がする。もっとも、万博でもニューヨーク・ワールド・フェアなどというように名づけているものもあるが、言葉の概念からするとフェアは小さな地域を中心にするもの、エクスポジションは国、地方単位で実施するように使われているのではないだろうか。

 バンクーバーで毎年行われるPNE(Pacific National Exhibition)はエクスポジションではなくて、やはりフェアだ。住民にとって身近で、行くにしても万博のときのように気構えなくていい。あまり娯楽的な刺激の多くないバンクーバーで誰もが楽しめるフェア、それがPNEなのだ。

 PNEの歴史は1910年にさかのぼる。その前、1869年からニューウエストミンスターで行われていたフェアに刺激されて、1907年に有志が集ってフェア開設の話がまとまり、バンクーバー・エキシビジョン協会が発足した。

 資金作り、会場探しなど、準備は遅々として進まなかったが、それでも会場に市の東の外れ、競馬場のあるヘイスティングパークが決まり、産業館などの建物や設備の建設が始まった。

 1910年8月15日、第1回のバンクーバー・エキシビジョンがいよいよ開幕した。翌日のバンクーバーの日刊紙アドバイザーには「準備不足でところどころ不備が目立ったが、ともかくフェアは始まった」と書いてある。わずか数年前までは森林地帯といっても過言ではなかった会場まで、市街電車も開通し、すぐ裏を走るCP鉄道は臨時駅も開設し、また海からボートで来る人も馬車で来る人も多かった。当時は珍しい自動車で来る人もいた。

 会場は産業館、機械館に分かれており、産業館にはシンガーミシンや小型から超大型までの金庫、キャッシュレジスター、その隣には馬の薬品などが陳列されていた。また最新式の電気湯沸かし器の実用性を実験で見せていた。BCシュガー、ウッドワーズ、バローズ計算機等、今でも名の通った会社も出品していた一方、地方の学校や芸術家団体も出展していた。

 機械館には農機器、ふ卵器、供餌装置などの近代養鶏場の設備一式や、野原の一軒家のためのガス燈設備、スチールワイヤーの鉄製品が出品されていたが、荷車、手押し車等の運搬機が一番多かった。

 会場には見せ物小屋や屋台もあり、人間の頭脳を持つという学者馬やガンジス河の聖なるワニ、スペインの踊り子、オランダのコメディアンやボール投げなどの遊戯場もあり、5ドル札がたちまち消えるほどであった。その他、サンドウィッチやコールドドリンクなど、食べるほうにも5ドルは必要だったという。ちなみに入場料は50セントで、これは1960年代まですっと同じだった。

 会期は8月15日から20日までの6日間。中でもハイライトは16日で、カナダのローリエ首相も会場に現れ、祝辞を述べている。カナダ最初のフランス系首相はBCではあまり人気がなく、演説には野次が飛んだという。

 その後、バンクーバー・エキシビジョンは名称をPNEを改称されたが、現在まで同じ場所で、会期も8月中と同じ時期に続けられている。

 途中、1942年から46年まで戦争のため中断したが、その間、この施設を利用してバンクーバー市以外に住むBC州の日系人を収容し、歴史の上で汚点を残したことも忘れることはできない。

(1992. 8月上旬号)
(絵と文:飛鳥井 堅士)

Posted by staff on 12 月 17th, 2009 and filed under 連載エッセイ. You can follow any responses to this entry through the RSS 2.0. You can leave a response by filling following comment form or trackback to this entry from your site

Leave a Reply

バナー1バナー2バナー1バナー2バナー1バナー1バナー1バナー1バナー2バナー2バナー1バナー1