日本の企業社会 - 7月号 - 中根雅夫

先日、ようやく散髪に行きました。気になっていたのですが、タイミングが合わず、行かずじまいでした。いつもは平日の午前中に散髪するのですが、今回は日曜の午後になりました。
 案の定、店内は”空き”はなく、ガラス越しに歩行者を漠然とただ眺めて、一時間余りを過ごしてしまいました。
 スタッフはオーナー夫妻を含めて4人いますが、時にはチームプレーで散髪をします。スタッフ全員がことば使いをはじめとして、接客マナーに気を配っていることがよく分かります。また、来店客に話題を投げかけて、会話を楽しませます。若いスタッフも日頃から研さんしているらしく、感心するほど様々なテーマで面白い情報を提供します。
 考えてみると、これは日本の商売の典型的な姿です。旺盛なサービス精神とその品質の高さは世界に冠たるものです。
 今流の表現を用いれば、これらの接客マナーの根底にあるのは「ホスピタリティ」です。
 ホスピタリティの意味は、お互いを思いやり、手厚くもてなすこと、または歓待をすることです。
 ちなみに、くつろぎ、癒し、非日常を利用者に提供し続けたいホテルとしてはホスピタリティ精神あふれるサービスは欠かせない要素の一つになります。
 今や様々な業界がホスピタリティを活用しています。たとえばインターネットの世界でも、ホスピタリティが注目されているようです。すなわち、デザイン、ユーザビリティー、ニーズに合う文章表現などホスピタリティを取り入れる必要が生じてきています。
 ホスピタリティを改めて念頭に置くと、新たなビジネス・チャンスがもたらされることにもなります。つまり、顧客、利用者の立場になって喜んでもらうためにはどうするかと考えることから新たな付加価値が生まれ、サービスが向上することにもなります。今後の業界、企業の成長にはホスピタリティ精神が大きな鍵となる可能性があります。
 そもそも、顧客が商品・サービスに対して単に機能や効用の価値しか認めないと、「コモディティ」化して、代替可能なものになってしまうと考えられています。ここでコモディティとは、たとえば卵や肉、米、野菜など、価格以外に差別化をはかる要素がないものを言います。そして現在、コモディティ化が進んでいるのです。新商品・サービスが市場に出ると、短期間に類似商品・サービスが同様な価格で提供されてしまいます。
 このようにコモディティ化が進む中で、「経験経済」という観点から、脱コモディティ化の戦略を提供する考え方があります。
 すなわち、企業は「商品・サービスだけを提供するのでなく、顧客の心の中につくられる情緒や感性に根づいた経験を提供することで、より強いブランドを構築できる」とするものです。
 つまり、顧客の体験という、性能や質が数値化されにくく簡単には模倣できない部分で、競争優位を確立する戦略です。
 事実、この「経験」を武器に業績を伸ばしている企業が現われてきています。その代表例がスターバックスコーヒーです。スターバックスコーヒーは、商品としてのコーヒーでも知的で洗練された店舗インテリアでもなく、そうしたものをすべて含んで『スターバックスでコーヒーを飲むという経験』という価値」を提供していると考えます(パイン&ギルモア『経験経済』)。
 コーヒー豆だけでは価格競争が激しく、また単にコーヒーを出す喫茶店であっても、そのほとんどが価格競争に組み込まれてしまいます。それに対して、スターバックスコーヒーの魅力は、コーヒーを飲むという行為だけでなく、スターバックスに触れるということであり、これが一種の喜びにさえなっているとしています。この場合の鍵の一つとなるのが、ホスピタリティなのです。
 ともかく、「経験経済」は、価値的な経験を重視し、商品・サービスを「ツール」として顧客の経験を演出し、価値を感じてもらうことを意図します。
 このように顧客の経験に焦点をあてて自社の事業を見直せば、自分たちの売り物を商品・サービスから価値ある経験へと変更させることができます。それには、たとえば顧客が購入後の自身の成功をイメージできるような、エピソードやストーリーで満たされているかどうかなどが重要なポイントとなります。
 いずれにせよ、企業は今後、その場所の雰囲気や、そこで過ごす時間という「経験」に顧客は対価を支払っているのだという認識を改めて持つべきです。

Posted by staff on 7 月 17th, 2009 and filed under 日本の企業社会. You can follow any responses to this entry through the RSS 2.0. You can leave a response by filling following comment form or trackback to this entry from your site

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