トムリンのシネマニア

映画評論家
Raymond Tomlin
女性映画、再考

 シモーヌ・ド・ボーヴォワールが代表作『第二の性』(1949年)で「人は女に生まれるのではない、女になるのだ」と述べたのはあまりにも有名。そんな彼女も今ならこう付け加えるだろう。「しかしそれによってハリウッドは、理性を失ったファッション至上主義、男性ゲットに命懸け、拒食症で漫画風、そんな特徴を持った女性主人公を大量生産することになってしまった」と。昨今のハリウッドが生み出す女性映画は、フェミニストが出現する前の退廃的でステレオタイプな女性描写と月並みなストーリー展開という最悪のパターンに陥っている。 

女の戦いを描いた “Bride Wars” や P.J.ホーガン監督の “Confession of a Shopaholic” など最近の女性映画は、客層を女性に絞っているにもかかわらず、非現実的なほど上っ面主義の、つまり体重に執着し男性に執着し結婚に執着する女性がメイン・キャラクターという設定だ。Confession of a Shopaholicでは、主演のアイラ・フィッシャーがデザイナー・ブランドの洋服を着るためだけに生きているマンハッタンのファッションかぶれを演じている。グッチのブーツをバーゲン価格で買うためなら死闘の覚悟もある主人公だ。彼女はピンクの服を着、思考など重要なものはすべてパトロン的存在の同僚(男)に託している。就職の面接では「fish(魚)」と「fiscal(会計)」を陽気に間違える始末。しかし、たとえ黒いサンローランのコートと紫のドレスを合わせて着こなすことが彼女にとっての最大の達成であったとしても、若い男性なら彼女をかわいいと感じるだろう。

この他の女性向け映画(あるいはラブコメ)もほとんど同様だ。 “He’s Just Not That Into You” (J・アニストンとD・バリモアが、恋人からの真剣交際申し込みを切に求める女性を演じる)、“All About Steve” (3月6日公開。サンドラ・ブロックが結婚の望みを胸に、一夜限りの恋の相手を追いかけてアメリカ中を駆け回る)、 “Ghosts of Girlfriends Past” (5月1日公開)などではすべてお決まりのパターンにはまりきった漫画的な女性が描き出されている。

 「ヒロインたちはますますマヌケになっています」、と言うのはフェミニスト学者のクリステン・マクドナルド氏。こうした漫画の主人公的存在は、イメージに執着するという退廃的な文化へ、我々の文化を引きずり下ろしているにすぎないと指摘している。「ハリウッドが作る最近の女性映画は、人の不幸は蜜の味というカラクリで成り立っています。観客は安心するのです。『私はあの女より賢い。あの女よりまともだ。あの女みたいに愚かしく拒食症じゃない』」。

現代の女性映画が誕生した1998年は違った。10年前、『ブリジット・ジョーンズの日記』は依然ベストセラー小説で、英国のブック・オブ・ザ・イヤーを受賞した。それは『セックス・アンド・ザ・シティ』のシーズン1がケーブルTV局HBOで始まった年で、スパイス・ガールズは世界ツアーの真っ最中だった。こうした映画に登場するヒロインは往々にしておバカではあったが、同時に彼女たちは皮肉や自嘲や知性を理解していた。ブリジットが2001年に公開され世界的に2億8000万ドルの興行収入を叩き出したとき、女性映画はハリウッドのホットな映画ジャンルのひとつとなった。しかし、『ブリジット・ジョーンズの日記』、『キューティ・ブロンド』、『プラダを着た悪魔』に続けと、このジャンルが持つ本来の俗っぽさに訴えた映画もどっさりと生産された。『幸せになるための27のドレス』、『近距離恋愛』、『ベガスの恋に勝つルール』などは、ステレオタイプな怠慢さとあからさまなアンチ・フェミニズムが特徴の凡作だ。

 「この悲惨な事態の原因は、究極的には、もちろん、男です」、と言うのはバンクーバーを拠点とする映画市場コンサルタント、メリッサ・シルバースタイン氏。「女性によって執筆されたハリウッド映画は全体の10%未満、女性監督の作品は6%未満です。人々が観ているのは白人男性の考える女性です」。

しかし、それは女性客の多くにアピールする女性映画じゃないか。そう反論するのはカナダの映画史学者J.B.シェイン氏。「『セックス・アンド・ザ・シティ』などの女性映画は女性客によってビジネスが支えられています」。昨年、『セックス・アンド・ザ・シティ』は間違いなく女性にとってその夏唯一の必見映画となった。最良の解決策は、女性を、もっと鋭く興味深い、通常はあまり有名でないタイプの映画に向かわせるよう仕向けることだ。シルバースタイン氏は言う。「エマ・トンプソンの最新映画“Last Chance Harvey”をちょうど観たところですが、女性の皆さんに伝えたいメッセージは、『是非この映画を観に行って、支持してください。他の作品と同様に完璧な作品ではないかもしれませんが、この映画を支持すれば、将来似たタイプの映画が観れるチャンスが高まります』」。

 現代の女性映画の解毒剤は、映画制作セクターに女性を増やすことだと氏は言う。「会議室では女性は上手くやっているんです。成功した女性エージェント、マネージャー、広報担当。ですがこれはクリエイティブ部門の仕事ではありません。こうしたことから、ハリウッドは女性とは結婚とショッピングのことしか頭にないと思うのです」。

 映画好きな女性への朗報は、現実味を欠いた現代の女性映画は、いつか飽和状態になってしまうということだ。「それは以前、ホラー映画でも起こりました」、とシェイン氏。

 現代の女性映画ブームが去った後の世界は容易に想像できるとマクドナルド氏は言う。そしてその時はもうすでに来ているのだと。「素晴らしい映画が次々と公開されていますが、自分でそれを探し出さねばなりません」。そして “Wendy and Lucy” を例に挙げる。「こうした映画は深刻な内容でもいわゆるフェミニスト作品でもありません。それらはただ、女性についての映画です。何より現実の世界で生きる女性を主題にした映画です」。

Posted by staff on 5 月 13th, 2009 and filed under トムリンのシネマニア, レイモンド トムリン. You can follow any responses to this entry through the RSS 2.0. You can leave a response by filling following comment form or trackback to this entry from your site

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