ふれいざー インタビュー 邦楽のホープたち
9月28日、UBCのChan Centreにおいて、邦楽コンサートが行われました。またその前夜に、総領事公邸において行われた歓迎会とミニコンサートでは、このカルテットがダイナミックな邦楽演奏を披露しました。
今回のコンサートは、国際交流基金主催の邦楽演奏会カナダツアーの一環として行われたものです。出演は、山本亜美(やまもとつぐみ)さんと、梶ヶ野亜生(かじがのあい)さんの琴デュオ「Tsugukaji-KOTO」、尺八奏者の小濱明人(おばまあきひと)氏、和太鼓奏者の山本麻真(やまもとまこと)氏。邦楽界の若きホープたちにそれぞれの邦楽にたいする思いをお聞きしました。今号では、お箏と尺八の演奏家3人のお話をご紹介します。
山本 亜美 さん
神戸市出身。NHK邦楽技能者育成会卒業。NHK邦楽オーディション合格。02年文化庁新進芸術家国内研修制度研修生。十三絃筝、十七絃筝、二十五絃筝などでコンサートを行う。邦楽舎会員。生田流新絃社 蒼竜軒(山本春亜として活動)。生田流新絃社合奏団 アンサンブル邦’ 等にも参加。
Q: お筝を始めたのはいつからですか?
山本: 6歳から、祖母が習い事としていつも弾いていた事がきっかけです。祖母の家に行くと真似しながら弾いていました。
Q: この道に進むと確信したのはいつごろでしょうか?きっかけはありますか?
山本: 初めて間もない頃から漠然と、箏に携わって生きていくのだろうとは思っていました。止めずに続けていた事と、このような演奏をしたいと憧れる先生方に師事した影響は大きいです。初めは先生のような音を出したいというところから、自分自身の音楽を作り出したいと思うようになってきたのだと思います。
Q: 二十五絃筝の特徴と魅力を教えてください。
山本: 十三絃の箏が一般的に「こと」と呼ばれるものですが、この十三絃箏と低音楽器である17絃の音域をうまく取り混ぜたものが二十五絃箏になります。音は、7音階(ドレミファソラシ)で並んでいることは十七絃も同じですが、音域がそれよりもあることで独奏楽器としても表現豊かです。また音色が少しハープにも似た感じがあり、コラボレーションをする際にも色んな楽器との相性がとても良いと思います
Q: なぜこの筝を弾くようになられたのですか。難しいところは?
山本: この楽器を開発された師である野坂惠子氏の演奏や生き様などに惹かれたことも大きいですが、まだ開発されてから20年という歴史から楽器としての可能性が未知であるとも感じました。始めてから10年ほど経ち色んな可能性を日々感じてます。難しいところは・・・単純に絃が多いという事で出せる音が増えます。という事は、出したい使いたい音が増えるということで、テクニック的に必然的に難しくなります。
Q: その後に挫折はありましたか? その際どのように乗り越えられましたか?
山本: 箏という楽器を使って何を表現したいのか、自分自身の音楽とは何なのか。そして子育てとの両立をする上で、時間の使い方などもうまくいかずバランスが悪くなっていたと思います。そのような事から色々考えて弾くことが嫌になった事がありました。ちょうど引越しをして土地が変わり、そこで出会った人々との会話や、また音楽の新たなつながりができたことから少しずつ楽しいという気持ちを取り戻していきました。人の力や土地の力は時にとても強い後押しになりますね。
Q: 最も心に残っている演奏会/公演はありますか?
山本: 箏の手ほどきを受けた狩谷章子(かりやあやこ)師の最後の舞台でご一緒できた事。そのときの感情は一生忘れられないと思います。師の一番素敵なところは、音色です。舞台上で光輝く音が横から聴こえてきた時は、一瞬舞台にいることを忘れそうでした。この人から私の根本にある音色の基準を教わったのだな、と。
Q: 尊敬する音楽家は?
山本: 師事した先生方。狩谷章子・吉崎克彦・野坂惠子の各師です。
Q: 今後の目標を教えてください。
山本: 枠を作らず色んな音を作りだしたいです。作曲についても同じく。人も音楽もすべてにおいて自由でありたいと思います。
Q: 道が決まっていない、あるいは迷っている若者にアドバイスをいただけますか。
山本: 道はすでにあっても見つけられない事がありますが、きっと素直に進めばおのずと開けてくると思います。受け入れるという事がとても難しくても、少しの方向転換で容易にできることもあるのかなと……そんな時はかならず応援してくれる人がいるように思います。
Q: ユニットを組むことにした際の、共通の音楽観を簡単にお教えください。
山本: 二人だけで音楽を作るには、同じ方向を向いているか真逆の力を出し合い新たなものを作るかだと思います。このユニットについては、前者のことが実現しやすく、音色や曲の解釈について話し合いよりも実際音にした時に自然にできることが一番の特徴です。
梶ヶ野 亜生 さん
鹿児島県出身。母、梶ヶ野涼玲から箏を学ぶ。古典、コンテンポラリーや、民族音楽、ジャズなど、多彩なレパートリーをこなす。NHK邦楽技能者育成会卒業。鹿児島市教育委員会・文化協会主催「第26回春の新人賞」第4回鹿児島銀行財団賞受賞。鹿児島市芸術文化協会理事。桐の音楽院主宰、沢井箏曲院講師、鹿児島国際大学短期学部音楽科非常勤講師。
Q: いつごろ筝をはじめられましたか? きっかけは?
梶ヶ野: 母が箏の師匠だったため、3,4歳には始めていたと思います。
Q: この道に進むと確信したのはいつごろでしょうか? きっかけはありますか?
梶ヶ野: 大学卒業して何がやりたいのか考えた時に、やはり箏がやりたいと思いました。
Q: その後に挫折はありましたか? もしあったら、どのように乗り越えられましたか?
梶ヶ野: たくさんありました(笑)。私の場合、自分から挫折という感じでやめたくなった事はありませんでしたが、一番大変だったのは、母が病気になり介護の為実家の鹿児島に戻らなければならなかったことでした。演奏活動の機会が減り、また自分自身の音楽に費やす時間も無くなりました。
が、とりあえず舞台に立つ機会があれば全部引き受けました。考える暇がないくらい仕事と介護で忙しかったのが良かったのかもしれません。
乗り越えられたのはそんな私を見て助けてくださる方やお弟子さんがいてくれたからだと思います。
Q: もっとも心に残っている演奏会/公演はありますか?
梶ヶ野: 演奏会ではありませんが、朝崎郁恵さんという島唄の方の歌声がラジオから流れてきた瞬間涙があふれてきたのは忘れらない思い出です。
Q: 尊敬する音楽家は?
梶ヶ野: いっぱいいますが、私の師匠、沢井忠夫、一恵師匠はとりわけ尊敬してます。
Q: 今後の目標を教えてください。
梶ヶ野: 世界中で箏弾きたいです。
Q: 道が決まっていない、あるいは迷っている若者にアドバイスをいただけますか。
梶ヶ野: 苦しさの中に楽しみを見つける強さをもつことが大事だと思います。
※山本亜美さんと梶ヶ野亜生さんは、箏デュオユニット「TsuguKaji-KOTO」としても活躍し、現代箏曲を次々と生み出しています。
小濱 明人 さん
香川県高松市生まれ。NHK邦楽技能者育成会終了。第2回尺八新人王決定戦優勝。スウェーデン国際吹奏楽フェスティバル、ケネディーセンター主催ジャパンフェスティバル(ワシントン)、国際尺八フェスティバル(シドニー)等に招待参加。古典、自作曲のソロ演奏のほか、数々のグループに参加している。
Q: なぜ、どんなところに魅せられて邦楽を始めたのですか。
小濱: 中学・高校と洋楽器を演奏していましたが、同時に世界の民族音楽を良く聴くようになりました。大学入学と同時に民族楽器をしたいと思ったのですが、そういったサークルは「邦楽部」と「雅楽会」しかなく、「邦楽部」に入部しました。尺八を吹き始めるとすぐにその魅力に憑りつかれてしまいました。節を抜き、穴を5つ空けただけの自然の竹の音色。幅の広い表現力。何より、日本人の中にある音の記憶に繋がったように感じました。
Q: この道に進むと確信したのはいつごろでしょうか? きっかけはありますか?
小濱: 尺八を始めて3年ごろ。同級生は就職活動に入る時期でしたが、私はプロを目指そうと決意し、さらに練習にのめり込みました。
Q: その後に挫折はありましたか? そのときどのように乗り越えられましたか?
小濱: 大学卒業後に受験したNHK邦楽技能者育成会に不合格でした。一年間浪人して、さらに練習と受験勉強をしました。2回目の挑戦で合格。同時に京都から東京に移住しました。そこから少しづつ演奏活動をするようになりました。
Q: 古典とコンテンポラリーとの違いは? コンテンポラリーな邦楽のどのようなところに魅力を感じられますか。
小濱: 古典は先人たちが伝え残した素晴らしい遺産。開国・敗戦によって断絶してしまった古の日本に触れることの出来る貴重な文化です。コンテンポラリーとはまさに今生きている私達が未来に向かって発する現在進行の表現。
昔の“奏法”や“心の表現”を学ぶ事によって古えに深く繋がる事ができ、生まれた時から日本に溢れている現代の音楽を取り込みながら、新しい音楽を作る事が出来る。これがコンテンポラリーな邦楽の魅力だと思います。
Q: 最も心に残っている演奏会/公演はありますか?
小濱: どの公演も忘れられませんが、先日のトロント公演はメンバー・スタッフが一丸となって作り上げた心に残るステージとなりました。お客様を含め皆さまに感謝です!!!
Q: 尊敬する音楽家は?
小濱: 尺八を吹き伝えた先人達。ビル・フリゼール。
Q: 今後の目標を教えてください。
小濱: 今生きている“私”にしか出来ない音を生み出す事。
Q: 今回このカルテットを組んだのはなぜですか?
小濱: 4人とも古典を勉強した上で、新しい音楽表現をしていました。 核を持ちつつチャレンジし続ける4人なら、良いステージになると思いました。
Q: 道が決まっていない、あるいは迷っている若者にアドバイスをいただけますか。
小濱: ゆっくりと丁寧に自分の心に耳を澄ませてみて下さい。自ずと答えは聞こえてきますよ。