テントウムシ
テントウムシの赤や黄に黒い斑点の甲殻は草や木の葉の中でも良く目立つが、これは昆虫の「警告色」。
この話しが出版される頃にはもうテントウムシは冬眠の用意に入っているだろう。冬の到来と共に生を終える他の多くの昆虫と違って平均寿命2年のテントウムシは冬眠する。テントウムシの英名は以前はLady Bugだったが、2枚の甲殻(背を覆う殻)が背中で交差する甲虫類の中の半翅目(Bug)と異なり、甲殻が背の中心で二つに分かれる甲虫目(Beetle)と認められ、今はLady Bird BeetleまたはLady Beetleと呼ばれる。Field Guide to Insect of North America (著者、KAUFMAN)には数多くのアメリカ大陸の昆虫が解説されていて、これによると北米では480種のテントウムシが認められ、世界中では約5000種が発見されている。
赤または黄色の甲殻にある黒点の数で名を付ける事が多く、例えばマークが7個あるものをナナフシテントウムシと呼ぶが、実際にはその黒点は同じ種でもその個体の発生の過程で大きく変わり、正確な分類はカラダの形や胸部(頭部と腹部の間に位置する部分―Thorax)の色や模様などの特徴を見ないと正確な識別はできない。多くの昆虫と同じく、テントウムシは卵から成虫までの4つの全く異なった身体へ変態するが、彼らはたったの2週間くらいの間に行われるので、この変態の過程で何らかの原因で体型や色に変異が起こって外観が変わるようだ。前記の通り一部の成虫は樹の幹や建屋の南側、その他の日当たりの良い自然地を選んで数匹から数十匹、稀には数百でがかたまって冬眠し、春に陽が永くなると冬眠から覚めて産卵して新しい生活が始まる。
ここで頭の活性化になるので昆虫の身体の構造について簡単に復習しよう。「昆虫」とはその体が一般に頭部、胸部、腹部の3つの主要部分に分かれていて、頭には普通一対の眼とその働きを補助する触角、そして時には口や匂いをかぎ分ける臭覚が有り、胸部には3対、6本の脚を持ち、腹部は食べたものの消化吸収をする。ただし何度か書いたように、この種の自然界の分類は原則ではあっても進化の過程でかなりの例外が起こる。
例えば多くのハチは前号で書いたように目が合計5個有る。更に問題を面白くするのは、普通昆虫と思われているものの中に実はそうでないものも沢山いることだ。身近なものでは蜘蛛の4対で8本脚、ムカデなどは脚が千本も有ると思う人もいるが、実は分類上、亜門(上から3段目のレベル)で既に昆虫と別れ、クモは節足動物門―鋏角亜門―蜘蛛綱に分類されるし、ムカデは節足動物門―多足亜門―ムカデ綱に分類される。それに対し、テントウムシの節足動物門―(亜門が無くて)昆虫綱―鞘翅目と別の綱に属する。
この間どこかで読んだが、同じ霊長類、ヒト科、ヒト属にある人間だって他の生物から見たらかなりの違いが有るではないか。肌の色、眼の色、髪の色や、平均の大きさも世界の地域や気候に因って異なるし、更に現代社会になると甲虫の殻と同じ部位に派手な色や眼が廻るような柄が出来、毛は白から黒の間に緑や黄色まで目覚しい進化が見え、眉毛は棘のよう、標本収集をしたらそれだけで図書館が建つだろう。
話をテントウムシに戻す。殆どのテントウムシはアブラムシなどの害虫を餌とする捕食性の生き物で有る事から、ヒトからは益虫と認められているが、気候変動やその他の理由で食料が尽きると、自分たちが産んだ卵まで食べてしまうことがある。一方、有る種のテントウムシは草食種で、その植物が果物だったり農作物だったりすると人間の敵として害虫になって皆殺しに遭ってしまう。メキシコで猛発生した「メキシコ豆食いテントウムシ」のような極端な生態を持つ団体行動すら出来る虫だ。考えるとこの世の中に君臨していると誤解しているヒトは全く勝手なものではないかと思うが、それぞれの生のレベルの中でそれは生きとし生きるものの宿命的な行動なのかも知れない。
テントウムシの赤や黄に黒い斑点の甲殻は草や木の葉の中でも良く目立つが、これは昆虫の「警告色」の中でも代表的な彩色で、昆虫を捕食する多くの小鳥や獣たちに、「俺を食べるとひどい反応を起こしてひどい目に遭うぞ」、と警告するための彩色だ。僕は味見した事は無いが、明らかに単に味が悪いだけではなく、脚の関節から出る毒は時には相手に発作的な内出血を起こさせ、麻痺させる事を他の生き物は長い世代にわたって学習し、それを真似て形だけが似た「テントウムシモドキ」まで誕生した。又、種によっては殺虫剤のような液体を散布して外敵を攻撃する種も遠隔地にはいるらしいが、これは例外で、アブラムシなどの害虫を退治する習性は、彼らが決してヒトに媚を売るためではないにしても、われわれの周辺では味方と考えて間違いは無い生き物である。