メンフクロウが帰ってきた
森や林でジョギングをする人がフクロウに襲われて頭に怪我をさせられるのは、上下に動く頭髪を小動物の尾と感違えされるかららしく、特に髪の長い女性が攻撃を受けやすい。
今年の四月末、メトロバンクーバーの公園管理をしている友人から電話が入った。又フクロウが巣箱に入ったと言う知らせ。彼は役人である前に野生の大愛好家。2005年に、公園の機材置き場の側面に、絶滅危惧種のメンフクロウの巣箱を取り付けたらどうだろうと持ちかけると、即時に合意して、地上から5メートルほどの東面の壁のトタン板に15センチ角の穴を開けてくれた。僕は合板で幅70センチ、高さ40センチ、奥行き35センチの巣箱を作った。
外壁の穴に合う様に箱の入り口を合わせて建屋内の梁に取り付け、屋外に開いた穴には簡単なひさしと、フクロウの翼を傷つけないような木の枠組みを作った。その年の2月に「キヨシ、直ぐ来い」と電話のメッセージ、僕がおっとり刀で駆けつけるとメンフクロウが巣箱にいると言う。
この箱にはちょっとした工夫がしてあって、建屋内から梯子で登ると内側に観察用の穴があり、5メートル程の高さのその隙間から見るとメンフクロウの母親の不審げな眼と、足元に白いものが見えた。梯子から手を伸ばして、1センチほどの隙間にカメラのレンズを当ててめくら撮りの写真をコンピューターに取り込んでみて、母フクロウの足もとにいるのは実は雛である事が分かり、それから2週間してそのたった一羽の雛は巣離れした。メンフクロウはその英名のとおり普通納屋(Barn)に巣を作るが納屋の数が減り、窓も少なくなって入れる建物が減った事が大きな原因のようだ。
その翌年の冬にも2羽が生まれたが、その後の3年間メンフクロウは戻らなかった。去る4月末の電話は、メンフクロウが卵を2個産んだという着巣の知らせだった。じっとしていられないので降り続く雨の中を2日後に出掛けると彼はわざわざ梯子を掛けて用意して置いてくれた。
よじ登ってそっと覗くと、気配を感じたそのメンフクロウは箱から飛び去り、箱の中には卵が1個増えて3個になっている。普通3個の卵は上出来なのでわれわれは成功を祝いあったが、5月初旬になって公園内でムラサキツバメの巣箱の準備をしていると、作業中で通りかかった彼が車の中から大声で「キヨシ、卵が6個になったゾ!」と叫んで走り去った。
メンフクロウは比較的繁殖力の低いフクロウで、普通1個から3個、余程多くて6個しか卵を産まない。環境が良く、餌の多い年とか、逆に悪くて生存率に疑いのある年には最高6個までの産卵が知られている。ワシ、タカ、フクロウなどの猛禽類は最初の卵を産み落とすと直ちに抱卵を始めながら次々に卵を産み続ける。
メンフクロウの抱卵は比較的長く、普通32日から34日で雛が孵るが、あとから産まれれた卵は当然孵化が遅く、成長を続ける第一号はより多くの餌にありつくので生存率が高く、大量の産卵でも普通は3羽以上の生存率は余り高くないという哀しい運命にある。今年の家族はこの悪天候に災いされて平常よりも遅く巣に着いたと思われ、多く産卵して1羽でも生き残りの機会を増やすという、一つの自然の過酷な宿命を背負っているのだろうか。
このバンクーバー地域で見られるフクロウは、稀鳥に属する種を除くと大きい順にGreat Grey Owl (カラフトフクロウ)、Great Horned Owl (アメリカワシミミズク)、Barred Owl (アメリカフクロウ)、Snowy Owl (シロフクロウ)、Barn Owl (メンフクロウ)、 Short-eared Owl (コミミズク)、Northern Hawk Owl (オナガフクロウ)、Western Screech Owl、 Northern Pigmy Owl の9種。
ところで日本名は基本的にミミズクとフクロウの2つのグループに分かれていることは良く知られ、尖った耳のようなものが生えているミミズクと、耳の無いフクロウに呼び分けられるが、ミミズクの「ミミ」は耳ではなく、大きな羽根飾り。
フクロウの耳穴は普通左右非対照の位置にあって、夜間でも有効に狩が出来るように音の位置と大きさを左右の反射の差や反響などから判別する。視覚と共に聴覚は人の約20倍の感度を持ち、音が異なった反射による何百分の一秒の違いを瞬時に測れるといわれる。そして暗闇では獲物は早く逃げられないからフクロウの飛行速度はそれ程重要では無いわけである。ちなみにフクロウでも真っ暗闇では物は見えない。
昔、僕たちは休暇の度に北アメリカ西部の自然地を走り回っていたが、モンタナ州でのある日、森の中の松の大木の3メートルほどの高さに直径15センチほどの穴を見つけた。リスの巣穴にしては大きいので近くに何かの証拠がありはしないかと探していると頭の上をフッと風が流れた。思わず顔を上げると、大きなフクロウが穴に飛び込む姿を、当時は良く効いた僕の眼が瞬間に捕らえた。殆ど頭を翳める高さでも全く音はしない。足元に落ちている羽根はその5ミリほどの先端が綿を切りそろえたようにフサフサになっている。翼が風を切る音を吸収して消音するフクロウの風切り羽根だ。大型で幅の広い翼では早くは飛べないが、森の木立ちをかいくぐっる操縦性を備えている。
良く近郊の森や林でジョギングをする人がフクロウに襲われて頭に怪我をさせられるのは、上下に動く頭髪を小動物の尾と感違えされるかららしく、特に髪の長い女性が攻撃を受けやすい。薄暗い早朝や夕刻に森に入るときは、帽子などで頭を保護したほうが安全。夜行性の彼らは眼が殊更大きく、哲学的な顔をしているが、実は目玉が大きいために頭脳の大きさが不足し、人か獣か判断が出来ない。