インディアンの花の島

小太りでモジャモジャで黒ブチ

バックパッカー相手のホステルをやっていると、ときどき信じられないようなとんでもない客が来る。

インディアン ホットスプリングスコーブ

巨泉が来た? と思ったけど、小さいし、女性でした。十年ほど前にぼくが経営していたフローレスアイランドのバックパッカーズホステルに来たお客さんです。しかし、日本人の女性なんだから、わざわざ大橋巨泉にそっくりな髪形やメガネというファッションとは、これはいったいどういう意図か?

無線でガーガーと「桟橋に出て来い、ユキ、このやろう!」と酔っ払いのインディアンたちがわめくので行ってみたら、彼女が地元インディアンの二人乗りの小さなボートを占拠していたんです。

「トッフィーノのバーで飲んだ後、桟橋を出ようとしたらいきなり乗り込まれてよ、お前んち知ってるかって聞くから、家の前通るって言ったら、俺の椅子にデン、と座り込んで船を出せって言うんだよ。びっくりしたぜ。こんなこと初めてだ。俺が座るところなくなっちまって床に座ってたからケツが痛ぇぜ」

ぼくだってびっくりです。丸々八年間で何千人ものお客さんたちが来てくれたけど、このクレイオクオットサウンドの離島フローレスアイランドまでヒッチハイク? でやってきたのは、後にも先にも彼女一人だけでした。
「ユキ、お前、船代払えよ」
「何でぼくが?」
「お前の客だろ?」
「交通費はぼくに関係ないだろ? 自分で彼女から取り立てな」

インディアン2 フローレンス島

ぼくはそのままホステルに戻っちゃったけど、彼女、頑として金を出さず、船代当時14ドル、まんまと浮かせて来ちゃったみたい。

は~、これか~。昨日、彼女からの予約の電話を受けてたとき、そばで日本人男性のお客さんが聞いてたんですよね。それで彼は今日は他の日本人客たちと、ぼくが手配した地元インディアンのモーターボートでホットスプリングスコーブへ行って、さらに何泊か連泊すると言っていたのに、いきなりやっぱりやめて今朝でチェックアウトしたいと言い出したんです。ほかの人たちに「一緒にホットスプリングスコーブに行こうよ」と説得されて、今、彼はみんなとツアーに出かけていますが、そうか、巨泉が原因だったか。

彼女、ホステルに入ってくるなり「オーナーを出せ」と言う。
「あんたじゃ話にならない」
はぁ、困った人が来たな。
「ぼくがオーナーですよ?」

あ、彼女、怒ったみたい。こういう「自分が日本一」と思ってるタイプ、(当時の)二十代によく間違われたぼくみたいなのがホステルのオーナーだと言うと、プライドが傷つくみたいで、怒り出すんです。カナダ人やオーストラリア人で白人優位主義を隠せない連中もすぐに怒り出しますけどね。

ここまでの会話、英語ね。ま、いいけど、ぼくも日本人だし、あなたも日本人。日本語で話しませんか? て言ってみたけど、取り合わず、英会話続行。
「宿代が高すぎる。まけなさい」
「一泊15ドルって、予約のときにも言ってありますよね。それに15ドルで高すぎるとは、何を基準に?」

その頃は一週間宿泊前払いの割引レートもやっていたので、それで納得してもらったけど、三日後にはチェックアウトするから金返せ、とわめきだしました。もちろん割引料金しか払うつもり無しの金額を返せって。まぁホステル客にはありがちな人種ですけど、それが日本人だと、がっかりしちゃうな。

他のお客さんがこいつを嫌がって逃げちゃうので、さすがに割引料金は却下したけど、返す義務のない金を返してやって、とっとと出て行ってもらうことにしました。

しかし、帰りも海上バスに乗らない。お隣の雑貨店に船で買い物に来る人たちを片っ端から止めて、ホットスプリングスコーブに連れて行けと言っているらしい。タダで。お陰でぼくのところには雑貨店やインディアン村から電話と無線がかかりっぱなし。「ホットスプリングス行きの船の手配、してやれよ」って。でもさっき「あんたが船の手配をしたら、私は船代を払わなければならないじゃないか!」て怒鳴られちゃったんですよねぇ。

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