光と風のなかで

初春の小鳥

雪が多く寒さの厳しい冬は、小鳥たちにとっても辛い。そんなとき、巣箱やフィーダーは彼らの命綱となる。

高橋 清

清2 春の花芽をむさぼるアメリカコガラ

フィーダーで小鳥に餌を与えるのは野生にとって何をもたらすだろう。自然科学者でBird Study Canadaという野鳥研究機関の中心で活躍し、鳥の研究で知る人ぞ知る、バトラー博士が最近のVancouver Sun紙に寄せた記事は、餌箱が果たして小鳥にとって有益か、或いは無益かの話題で、バトラー博士は科学的根拠からその議論を取り上げた。

博士には時々お目にかかり、昨夏はポートムーディーで鮭の幼魚の生息に影響のある海草の移植作業でお目にかかった。自然を科学的に観察する事に熱意を持つ学者。恐らく『ふれいざー』の読者の中でもこの3月14日の新聞記事を読まれた方が多いと思うが、ごく簡単に要点だけを紹介すると次の通り。

博士の挙げたひとつの例はウィスコンシンの研究者がChickadee(日名コガラ)の冬季間の給餌状況を各種の条件で調査した結果で、コガラの一定の時期の市街地における餌箱の有る状況での生存率と、近郊の自然地のそれを比較したところ、平常の気候では差が見当たらないのに対し、厳しい冬では明らかに餌箱がコガラの生存を助けている事が確かめられた。

餌箱に関しての今一つの議論は小鳥が依存性を持ってしまうか否かだが、このようにして給餌しても、彼らは実際には依存性は無いことも確かめられた。一方アイルランドで行われた研究は、餌箱のある地域の小鳥たちは春先の産卵もやや早く、育児の成功率も高いことも実証した。

バトラー博士も強調する最も大切なことは、フィーダーとその環境の清掃と消毒で、僕は時折フィーダーに新しく餌を入れる前に、石鹸と熱湯で清掃する。Project Feeder Watchという、カナダ全土で行われる冬季に庭に来る小鳥の調査には僕も、最近まで過去12年間加わった。

清 春を楽しむワキアカトウヒチョウ

この冬はバンクーバー地域のカナダ南西部では特に厳しい冬で特に雪が多く、長い間地面を覆って餌が乏しかったために、餌箱に来た小鳥の数は過去で最も多かったと思う。普通の大きさのフィーダーは2日と持たない日が長く続いたのである。

僕にとっては巣箱は単なる鳥を見る楽しみだけでなく、”観察”することもひとつの仕事。例えばPine Siskin(日名マツノキヒワ)という小型の鳥はその日名の通り、冬の前、松カサから種を採って食べる鳥で、松類の成長に強く依存し、前年の秋の日差しが少ないと実るマツカサの量が減り、冬にフィーダーにやって来る数が減る。

殆どの小鳥は留鳥と言って一年を通してその地域に留まるが、近郊の自然地が開発されると数が激減することから人間社会の野生への影響が読み取れ、また、鳥によっては数の増減に一定のサイクルがあるし、時々希鳥が訪れるので自然界のメッセージを読み取れる。この数年、北米中南部を生息地とする小鳥が迷鳥としてこの地に飛来することが多くなったのは、地球温暖化の故とされている。

3月に入ると間も無く、2羽のオスのHouse Finch(メキシコマシコ)がやって来て朝から晩まで、降ろうが降るまいが庭で啼き続けている。彼らも当然フィーダーにやってくるが、他の時期には遠慮深く餌をついばむのに、この時期は忙しくやって来て数秒間、餌のヒマワリの殻をむいた種をむさぼり、又庭の立ち木に帰って啼き続ける。その健気な歌声を果たしてメスたちは何と聴いているのか、数羽のメスのフィンチは餌箱の辺りで啄ばみ続ける。

楽しみだけでなく、時には哀しい生命のはかなさも見る。庭でほとんど歩けなくなっている小鳥のほとんどは、数年の命を全うして老衰した小鳥であろう。気をつけていると小鳥の群れの中に見つけた動きの悪い小鳥は数日の間に力が弱り、餌もついばめなくなる。

そんな時、運よく捕まえられれば小さなダンボール箱に入れて水を飲ませ、暖かい室内で最期を看取ってやることもあるが、驚かせたくないし殆どはそれも出来ず、出来ても若し悪い疫病を持っていたりすると人にも危険をもたらすので、消毒は確実にしなければならない。

数日前に哀しい出来事が起った。雪に埋もれた庭にやって来ていたSpotted Towhee(ワキアカトウヒチョウ)のメスの体がこわばって見えると思っていたら、数日するとフィーダーの下でくちばしを大きく開け、息を荒くしはじめた。ドアーの前まで出ると近くの下生えに逃げ去って、ドアーから離れるとすぐに戻って来る。恐らく老衰と思われるその鳥を人が手を出して驚かせない事にしようと思い定めて見ていると、やがて夜の闇が迫る頃、その鳥は10分も掛けて何時も留まっていた、5メートルほど先の石楠花の木陰に、ひっそりと入っていった。以来その鳥は二度と僕の前に姿を見せることは無かった。

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