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ウサタの月旅行

ウサタは、月ウサギをさがしにロケットで月に行った。月についたウサタは毎日一生懸命月ウサギを探したが、ロケットへの帰り道がわからなくなり……。

青山 都

ここはカナダ、ロブソン山のふもとの小さな村です。村の名前はウサギ村。名前のとおりにウサギばかりが住んでいます。

村の真ん中に大きなまあるい広場があり、ウサギたちは月広場と呼んで親しんでいます。

つき広場の大きなカエデの木に村の大切な「お知らせ」がはられます。「カエデのお知らせ」と呼ばれてよく知られています。今日はられた「お知らせ」が、あまりに特別だったのであっという間に村中をかけめぐりました。

村のウサギたちがその「お知らせ」を見るために月広場をめざして次々とやってきました。

白いウサギのウサタも走りやすく両耳を後ろにねかしてすっとんできました。

今日の「お知らせ」は、となりのトムおじさんが教えてくれました。トムおじさんはウサタの大切なロケット仲間です。

月広場のカエデの木のまわりは、ウサギでいっぱいです。長い耳、茶色の耳と、いろいろな耳があって「お知らせ」が見えません。

ウサタはやっとのことで、カエデの木の前に出ることができました。カエデの木にはいつものように白い紙の「お知らせ」が貼られています。簡単そのものですが、ウサタには夢のような特別の「お知らせ」です。

「お知らせ」
ロケット・ウサギ募集
ロケットで「月旅行」する
ウサギを募集します。 ウサギ村

「すごいぞ! ウサギがロケットにのって月に行けるんだ! すごい!」

と、ウサタは大声でさけび、浮かれ気分で「月、ロケット、月、ロケット!」と、ひとり言をいいながら家に帰りました。月広場からまわりの景色は全然目に入っていません。

ふとロブソン山の方を見ると、月がのぼるところです。ウサタはその月を見ながら走りおっと危ない! もう少しでフレイザー川に落ちそうになり、やっと前を見て走りだしました。吊り橋をわたり、松林をぬけると一面のニンジン畑です。

すぐのはトムおじさんの畑で、その次がウサタの家の畑で、お父さんはニンジン作りが仕事です。お母さん、ウサタも手伝います。

ニンジン畑の真ん中に家があり、家の明かりが見えてきました。ウサタの帰りをお父さん、お母さんが今か、今かと待っています。

この日からウサギ村は、月ロケットの話でもちきりで村中の話題です。

ロケットに乗って月に行きたいウサギはたくさんいて、ロケット・ウサギを決める試験があり、ウサタもトムおじさんも受けました。

一番目は書く試験、二番目は話す試験、三番目はロケットに乗って大丈夫かの試験です。

はじめは狭いところに入れられて、シート・ベルトをしてクルクル回されます。急に止まったり反対まわりになったりします。その後、重い宇宙服を着て、月の表のようなデコボコした上を歩かされます。体力がいります。

ウサタは一番目、二番目、そして三番目も何とかできました。ふだん、トムおじさんとロケットについて話していたので助かりました。

トムおじさんは一番目、二番目はよくできたのですが、三番目が駄目でした。「とてもつらかったよ!」と、終わったあとにまっさおな顔をしてフラフラでした。

いよいよ、ロケット・ウサギの名前が「カエデのお知らせ」に発表される日です。
月広場にはウサギたちが次々とやって来ています。ウサタ、お父さん、お母さん、トムおじさんも少し前に着きました。
村長のビルが大きな耳をぴんと立てて「お知らせ」を手に姿を見せました。ビルは月広場を横切り、手にした「お知らせ」をカエデの木に貼りました。

「お知らせ」
ロケット・ウサギは
ウサタに決まりました。 ウサギ村」

「おめでとう!」「おめでとう!」
「がんばれ! ウサタ!」

と、皆から言われもみくちゃにされ、ウサタはうれしくて天にものぼる気持ちです。ロケットに乗って月に行けるなんて夢のようです。

トムおじさんもとてもよろこんでくれました。おじさんは三番目の試験で目がまわり、ロケット・ウサギになるのをあきらめました。自分がだめなら、ぜひウサタになってほしいと願っていました

「おめでとう! おじさんの分もがんばっておくれ!」と、トムおじさんに言われて、ウサタの目からとうとう涙がこぼれだし、うれし泣きです。

ウサタがロケット・ウサギになる訓練がはじまりました。それは遠い北の町イエロー・ナイフでされました。

毎日、来る日も来る日もきびしい訓練です。ウサタはロケット・ウサギになることが、これほど大変とは思っていませんでした。トムおじさんが目をまわした三番目の試験は、今思えば簡単そのものです。

今ではもっと狭いところにいれられてクルクル回され、急に止められ、その中で仕事をしなくてはなりません。

ウサタは時々、つらくて泣きたくなります。そんなとき、ウサタは空を見てウサギ村のことを考えます。空にはカナダグースが群れをなして飛んでいます。

その日もウサタは、空を見ながら月広場、カエデの木、ニンジン畑で働くお父さん、やさしいお母さん、なつかしいトムおじさんのことをいろいろ思いうかべていました。

その時、一羽のカナダグースがウサタをめがけておりて近寄ってきました。そしてウサタに長い首を寄せます。

「君は誰? ぼくに用があるの?」

と、ウサタがカナダグースの首を見ると、何か結び付けられています。ウサタがそれをはずして見ますと、ウサタあての手紙でした

「ウサタ、がんばってください!

「がんばれ! ウサギの村のウサギ一同」

それに真っ赤なカエデの葉が一枚入っていました。月広場の大きなカエデの葉です。

ロケット出発の日がとうとうやってきました。朝から青空が顔を見せています。

月旅行のロケットにウサギを乗せることは大ニュースで、テレビで放送されています。

ウサギ村の月広場のカエデの木に、大きなテレビ・スクリーンがつるされました。たくさんのウサギたちが集まってきています。ビル村長、お父さん、お母さん、トムおじさん、皆がこうふんしています。

ウサタがテレビに映っています。白ウサギのウサタに青い宇宙服が良く似合っています。ウサタは手を振りロケットに乗り込み、いよいよ出発です。カウント・ダウンが始まり、「 、9、8、7、6、5、4、3、2、1、ゴー」 グォーというすごい音と、太く青白い光を出してロケットは月に向かって打ち上げられました。

ロケット・ウサギ号(ウサタが乗っているのでこう呼ばれています)は、無事月に到着することができました。

ウサタは、ロケットに乗るまでは胸がドキドキして困りました。しかし、ロケットに乗ってからは、訓練で習ったことばかりですぐに普段のウサタになりました。

ロケットに乗って月に行くのは長い間の夢で、それが現実となったのです。ウサタはロケットの窓から月の世界を見わたしました。しーんとして静かそのものです。

「のんびりしてはいられない。仕事をしなくては…」と、ウサタはひとり言をいいながらプクプクふくれた宇宙服を着て、まあるいヘルメットをすっぽりとかぶりました。

今回の仕事は、月にウサギが住んでいるか調べることです。ウサギさがしには、ウサギが一番良いと、ウサギをロケットに乗せて月に送ることになったのです。

ウサタはロケットから月の世界におりました。月の表面はかたくゴツゴツしていて、とても歩きづらいです。イエロー・ナイフで歩く訓練をしましたが、実際とはひかくになりません。とてもむずかしく疲れます。

翌日からウサタは出来る限り遠くまで、月ウサギをさがしに行きました。これ以上行くとロケットへもどれなくなるかなと、心配になったことも何度かありました。くたびれました。長い間、夢に見た月に来ているのを時々忘れるくらいに疲れました。

最後の日になりました。今日こそと思ってウサタは遠くまで、月ウサギさがしに行き、とうとうロケットにもどる方向がわからなくなってしまいました!

あせればあせるほどわかりません。もう地球にも、ウサギ村にも戻れないかもしれません。

ウサタは恐ろしさで気が遠くなりそうで、ただ夢中で歩きました。といってもフワリフワリとしか歩けません。これより先はニ方向、どちらを通ってきたのか、ウサタは全然覚えていません。

ふと下を見ると、左方向に何か落ちています。月では見かけないもので、ウサタは夢中でひろいました。

何とそれはカエデの葉でした。赤いので目に入ったようです。ウサギ村から手紙といっしょにカナダグースが、イエロー・ナイフまで運んでくれたものです

ウサタは月ウサギさがしに夢中で、宇宙服のポケットからおとしたことに気がつきませんでした。でもおかげで助かりました。左方向に行ってロケットに戻ることができました。

ロケット・ウサギ号は、無事に地球に戻りました。月ウサギを見つけるとことはできなくて残念ですがしかたありません。

しかし、ウサギがロケットで月旅行をしたことは大ニュースです。ウサタは世界で一番有名なウサギになりました。

でも、ウサタはロブソン山のふもとの小さなウサギ村に帰ることしか考えていません。ウサタにとって、世界で一番良いところはウサギ村です。

皆に早く会いたいです。そしてニンジン畑から掘りたてのニンジンを、パリッ、パリッとかじりたいなあと思っています。

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