タイからの便り (最終回)
長い間タイに技術指導のボランティアとして度々行っていたが、国民性や状況の違いで四苦八苦。締めくくりは体を壊して車椅子で帰国することになってしまった。
タイから11月末に疲労困憊して帰国。今回ほど困難な3ヶ月のプロジェクトを扱ったのは過去14年のタイの仕事で最も困難なものだった。タイ人の楽観的な、物事を深刻に考えない国民性は普段の付き合いには楽しく気楽なものだが、いざ仕事となると障害になることが多く、事業の成功不成功は人材の選択に負うところが他の国以上に多いと僕は何時も感ずる。
いつもは仕事の手順や理論を教えることが主体で、開発研究はボランティアーの立場では責任問題上できるだけ避ける事になっているが、今回は会社の将来を左右する新製品開発を社長から特に依頼されて受け入れたもの。この種の仕事をしたことの無い技術屋を相手に四苦八苦し、残るところひと月になっても適当な設備の組み立てが出来ず、実験が進まない。
何とか結果を出そうと決心して先ず器具、設備を組み立てることから始めた。研究室の主だった人を3人連れて、街に出来た日系のデパート四階建ての『ローソン』に出かけ、反応機に適した台所用品を見つけるよう提案したが、僕にはほぼ見当は付いていた。1時間かけて『ああだ、こうだ』と若い女性の技術屋はおしゃべりしながら台所用品売り場を歩き回ったが、見つけたのは細長い透明なガラスの花瓶。そこに穴を開けたり、攪拌機などを取り付けたらひとつ間違えばすぐ壊れる。時間の無駄も充分した後、魔法瓶の売り場に連れて行き、一番大きな、800ミリリットルの魔法瓶を買った。約1000バーツ、カナダドルで約$30の中国製だ。
どのようにして反応機を作るかを売り場で説明していると、売り子が『お手伝いが要りますか』と寄って来たので聞いて見ると、此れが最大の魔法瓶だという。反応機の最低限に必要な条件は二つ、一つは容器が過熱、冷却が可能なこと、いまひとつ最も大事なことは容器の底からガスが噴出できることで、これを逆さにすれば条件は満たされる。魔法瓶は僕が望んでいたより小さかったが、予備実験にはこれでも間に合う。
魔法瓶の底を切り取ると、真空になっている、ステンレスの内と外の壁の間に隙間があわられる。外壁の上下に小さなパイプを取り付け、冷却水、温水などを必要によって流すことで反応機の温度を調節できる。蓋に穴をあけ、ちょっと細工して噴出孔を取り付ければ出来上がり、後はこの器具を逆さに取り付けて攪拌機を組み込み、出来上がりである。製作作業は工場のワークショップに緊急の依頼すると翌日は出来上がった。
相変わらず反応のコントロールをどうするか担当の人には理解できないので、すべての作業を、冷房の効かない、気温摂氏35度の作業場で汗だくで一日かけて実験をしたら、第一回で計画通りの新製品が曲がりなりにも出来上がる。その後は計画していた基礎実験が順調に進み、帰国予定寸前になって基礎実験のすべてが完了し、兎に角新製品が出来ることが確認できた。本格的な開発研究で新製品を完成させるとなるとしかし、いまの技術者には明らかに荷が勝ちすぎる。既成の仕事をすることは上手に出来ていても、未知の新技術に挑戦する訓練は2-3月では出来ない。僕は地元の大学の研究室の応援を依頼することにした。
バンコクの中心にあるチュラロンコーン大学の工学部はタイ最先端の技術を持つことで知られ、教授の多くは日本の大学で博士号をとっている。副部長に会社を通して面会を以来、帰国の前夜午後6時に社長と一緒にバンコクで面会した。東大で博士号を取得した教授はオフィスから出てくるとすぐ日本語で、『高橋先生、お目にかかれて幸いです。』と丁寧にご挨拶され、予期していなかった僕はしどろもどろになった。
こちらの社長にも同席して居るのでその後は英語で約2時間かけて詳しい実験経過と、僕の希望する今後の計画を説明すると幾つかの質疑応答があった後、簡単に『共同研究をやりましょう、われわれは地元の企業と手を組んでこのような新製品開発をしたかったのです』と至極簡単に同意していただき、社長と二人小躍りをして喜んだのである。3ヶ月の仕事がこのようなうれしい結論で終わると、最後のタイ料理を頂いた後、夜10時にホテルに戻ってシャワーを浴び、文字通り疲労困憊でそのままベッドに倒れこんだ。
翌早朝7時までに空港に行かなくてはならない。朝の5時に目覚ましで起きたとたんに目の前が真っ暗になり、気が付くと床に倒れていた。眼がくらんだのである。やっとの思いで荷をまとめ、壁伝いにロビーに来ると迎えた会社の人は早速空港に手配を依頼して、車椅子で帰国する、というのがこのボランティアー作業の締めくくりとなり、今度こそつくづくと歳には勝てないことを痛感した仕事であった。
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LiveSmart Community Heroes 賞 受賞 高橋 清さん
16年前のふれいざー発刊2ヵ月後から常連執筆者として、自然や野生動物に関する啓蒙的なエッセイで多くのことを教え、気づかせてくださった高橋清さんが、この1月、TriCity NewsでLive Smart Community Heroesという賞を受賞なさいました。これは、BC州で環境のために著しく貢献した方に贈られる賞です。
高橋さんはこれまでにも、2003年には"Spirit of Communitiy Award"及びPurple Marti Stewardship Award、2006年にはTerasenから"Port Moody Environmental Award"、2007年にもMission Reportから自然保護活動に対する賞など、その自然保護のための献身的な活動が認められ、数々の賞を受章しておられます。