2009年、あなたは “牛に引かれて”どこへ行く?
2009年は丑年。牛にまつわる様々な話を紹介します。
人類が野生の牛を飼いならし始めたのは8,000年前、イラン高原付近といわれています。
以来、人間の重労働を肩代わりしたり、食糧になったり、衣料になったり、と大活躍。
もしかしたら最も人間に貢献した動物かもしれません。
文明人の中でなんらかの形で牛の世話になったことのない人は、おそらくいないのではないでしょうか。
それなのに、案外顧みられない動物であるのもまた事実。
普段は単に人間にとって便利なものとしか認識されていないようです。
地味で、忍耐強く、力強く、影のように静かに人間の文明化を支え続けてきた牛。
そんな、黙々と人間につくしてきてくれた牛に感謝をしつつ、私たちが引かれていくところをさがしませんか。
世界で最も有名な牛
フランスのラスコーの洞窟壁画と、スペインのアルタミラの洞窟壁画に描かれた牛。紀元前2万~紀元前1万年頃に描かれたといわれています。この牛は、現在のように家畜化される前の原牛(オーロックス)です。
牛の祖先
ゲロクスといわれており、3700~2600万年前の漸新世頃に現れました。そのときは小さかったのですが、中新世(2600~700万年前)になって気候がよくなって草がたくさん生えるようになったため、多く繁殖して身体も大きくなりました。
蹄をもつ動物
蹄を持つ動物は、牛の仲間と馬の仲間に分けられます。これは、脚の指の数によって分けられており、馬が奇数なので奇蹄類と呼ばれ、牛は偶数なので偶蹄類と呼ばれています。
牛の仲間の野牛
バイソンやスイギュウなどは、大きな身体や雌雄にある立派な角など、牛とはかなり違っていますが、ウシ属に分類されています。
そのほかの仲間には、
イノシシ(ウシ亜目)、キリン、シカ(ウシ科)、ヤギ、レイヨウ(ウシ亜科)、ヤク、ガウル(ウシ亜族)などがいます。
人間がつくった牛
現在、牛と呼ばれる動物は、ほとんど人間が品種改良して人工的に作り上げたものです。
種類は細かくわけると1000種にも及ぶといわれていますが、これも、人間がそれぞれの環境の中で自分達に都合のいいように作り出した結果です。
4つの胃
第一胃 一番大きな胃は最初に食べ物が入る前胃と呼ばれている胃です。硬い植物繊維なども細かくすることができます。中には微生物がたくさん棲んでいて、繊維を消化してくれ、栄養分も作り出してくれています。
- 第二胃 反芻するときに食べたものを食道の下まで送り出します。
- 第三胃 水や栄養物を吸収し、たくさんあるひだで大きい塊と小さい塊に食べ物を分け、大きい塊は第二の胃にもどします。
- 第四胃 第三の胃からきた小さくなった食物を、胃液で消化します。ここに入って来た微生物はたんぱく質として消化されます。
牛のよだれ
だらだらと続くものの代名詞に使われる牛のよだれ。牛の唾液は1日に50から60リットル出ます。けれど、硬い繊維を分解してくれる大事な原生動物や最近などを死滅させてしまってはいけないので、唾液に消化酵素は含まれていないのです。また、尿素も、大事な微生物の餌にするために唾液の中に含んでいます。
役に立つ牛の糞
牛の糞は、4つの胃と微生物によって非常に細かく分解されています。そのため、肥料や燃料など、人間の生活にもよく役立っています。
菜食主義なのに太っている牛
牛の胃の中には植物繊維の主成分であるセルロースを分解してくれる微生物が胃の中に住んでいます。その微生物の分解物からたんぱく質を作ることができるのです。
胃の中に入れる磁石
牛は大量に草を食べるため、放牧地に落ちている釘や金属類を一緒に食べてしまいます。小さな金属なら自然に排出されますが、お腹に残ったものが胃を傷つけるのが牧畜家の悩みのタネでした。
それを解決したのがカウマグネットと呼ばれる磁石。牛の第3胃に入れておき、お腹に入ってきた金属類をひきつけてためます。ある程度金属がたまったら、今度はもっと強力な磁石を胃の中に入れて引っ張り出します。
人間に多くの富をもたらす牛は、古くから宗教とも深くかかわっています。
- 誰もが知っているのは「牛に引かれて善光寺参り」。不信心な老婆が、牛のつのにひっかかった布をとうとして逃げる牛をおいかけ、善光寺までやってきた、という話です。思わぬことから信仰心を持つことになるという話から、偶然から思わぬよい結果が生まれるなどの例えにも使われます。
- 古代エジプトでは、牛はネコなどと同じように聖なる動物として崇拝されていました。プタハ神の聖獣として、メンフィスのプタハ神殿に飼われており、死ぬとミイラにされてサッカの聖牛の地下墓地に埋葬されました。
- ヒンドゥー教では、聖獣である牛を食べることを禁止しています。これは、貧しい農民たちが牛がおいしいということを知り、生活に役にたつ牛を食べてしまわないようにと、為政者が牛を聖なる獣としてひろめたという話もあります。
- 仏教には、身体が人で頭が牛の地獄の鬼がいます。インドの祇園精舎では守護神で、薬師如来の化身とも、厄病神とも言われています。
- ギリシャ神話では、フェニキアのエウロペという美しい王女に一目ぼれしたゼウスが、彼女に近づくために牛に姿を変えています。牛だと思ってエウロペが背中に乗ると、駆け出した牛はクレタ島までいき、二人は結婚しました。牡牛座はこのときのゼウスの姿だと言われています。
- 人間の想像力は牛をもとにした怪物も生み出しました。
- ミノタウルス: ギリシャ神話に出てくる、人間の体と牛の頭を持つ怪物。クレタ島のミノス王と妻パシパエの間にできた子供。王がポセイドンとの約束を破ったせいで生まれた乱暴者で、アテナイの英雄テセウスによって退治されました。
- 件(くだん): 牛の体と人間の顔をもった妖怪。人語を話し、様々な凶事を予言するといわれます。件はの誕生は凶兆とされており、生まれてから数日で死にます。1800年代初頭から日本で目撃談が伝わっていましたが、幕末頃に広く語られるようになりました。昭和に入ると、人間の体で頭が牛という件の目撃談もささやかれるようになりました。
牛がいかに人間の暮らしに密着していたかは、そのことわざ、諫言の多さでもわかります。
日本で使われることわざ
牛にひかれて善光寺まいり
日頃不信心な人が、思わぬことで信心するようになる。
牛の籠抜け
のろまな人は手際のよいことができない。(籠抜けとは、片方の入口からお金などを受け取って入ってもう一つの入口から逃げるという詐欺の手口。)
牛の歩みも千里
地道に努力すればいずれはものになる。 (足の遅い牛でも歩いていれば千里先までいけるから。)
牛の角を蜂が刺す
痛くもかゆくもない。全くダメージがない。
商いは牛のよだれ
あせらずじっくりと商売をすればいずれ利益があがる。 (牛のよだれは細く長くだらだらと続く。)
牛に対して琴を弾ず
わからない人に何を言っても無駄。
牛は牛づれ馬は馬づれ
同類同士は考え方が似ているので一緒に行動しやすい。
牛に乗って牛を尋ねる
近くにあるのに気づかずに探し回る。無駄な努力をすること。
角を矯(めて牛を殺す
直そうとしてかえってだめにしてしまう。 (矯めるとは、曲げたり真っ直ぐにしたりして形を整えること。)
早牛も淀、遅牛も淀
あせったところで結果は一緒。 (牛の歩みに遅い速いの差はあっても、行き着く所は同じ。)
暗がりから牛を引き出す
ものごとの進みがとても遅い。すごくのろくて動きが遅い様子。
牛を馬に乗り換える。牛を売って馬を買う
劣っているものから優れたものにのりかえる。都合のいいものに鞍替えする。
汗牛充棟
書物が多いこと。 (牛に引かせれば牛が汗をかき、積み上げれば屋根まで届く。)
牛の小便と親の意見は長くとも聞かぬ
長いばかりで役に立たないもののたとえ。
牛の糞みたいな奴
外見だけで判断できない、油断のならない人のたとえ。 (牛の糞は外側が固まっているようにみえても内側はまだ柔らかいことがある。)
蚊蝱は牛羊を走らす
小さなものでも大きなものを制することができる。(蝱はあぶのこと。小さな者が大きな者を動かす。)
九牛の一毛
たくさんあるものの中のほんの一部にすぎない。
飽くまで食べて寝れば牛になる
大食してすぐ寝転ぶと身体にわるい。
学は牛毛のごとく、成るは麟角の如し
学問をする人はすごく多いが、大成する人はほんの一握りだ。
女さかしゅうして牛売りそこなう
でしゃばりすぎてかえって失敗する。
牛に麝香、猫に小判
価値のわからない人にはあげても無駄。
二十坊主に牛のふぐり、五十坊主に鹿の角
落ちそうで落ちないものと落ちなさそうで落ちるもの。=若い僧侶は案外堕落しないが、高齢の僧侶は堕落しなそうでする。
牝牛(黄牛)に腹突かれる
弱いと思ってみくびっていた人にやられる。油断していたために失敗する。 (牝牛は大人しいので人を突くことが滅多にないことから。)
牛の一散
普段おっとりした人が、珍しく早く決断して行動する。/普段ぐずぐずしている人が、よく考えもせず行動に走る。
奉公人と牡牛は使いようで動く
役に立たないように思うものでも使い方次第で役に立つ。
牛に関する西洋のことわざ・慣用句
He that will have his farm full, must keep an old cock and a young bull.
農場を豊かにしたい者は年取った雄鶏と若い牡牛を手に入れろ。
=豊かになりたかったら早起きして一生懸命働きなさい。
Beauty draws more than oxen.
美(人)は牛よりも強く人を引っ張れる(惹きつける)。
If thou suffer a calf to be laid on thee, within a little they'll clap on the cow.
子牛を背負わされても文句を言わなければ、すぐに牛を背負わされる。
=文句を言わないと、どんどん嫌なことを押し付けられる。
Change of pasture makes fat calves.
草地を変えれば子牛も太る。 =変化すると気分転換になって状況がよくなる。
They think a calf a muckle beast that never saw a cow.
牛を見たことのない人は子牛の大きさに驚く。
Many a good cow has an evil calf.
良い牛が悪い牛を生むことはよくある。=とんびが鷹を産むの反対
A bellowing cow soon forgets her calf.
鳴いている牝牛でもいずれ子牛のことは忘れる。 =喉もと過ぎれば熱さを忘れる。/悲しいときは大泣きすれば気持ちが治まる。
The old cow thinks she was never a calf.
年寄りの牝牛は昔自分が子牛だったとは思わない。
An ox is taken by the horns, and a man by his word.
牛は自分の角で捕まえられ、人は自分の約束に縛られる。
The cow knows not what her tail is worth till she has lost it.
牝牛は自分の尻尾を失うまでそれが何か知らない。 =大事なものを失って初めてそのありがたみを知る。
It is no use [good] crying over spilt [spilled] milk.
こぼれた牛乳のことで鳴いても無駄だ。 =覆水盆に返らず。
The cow that's first up, gets the first of the dew.
一番先に起きた牝牛が一番先に朝露を得られる。 =早起きは三文の得。
If you make your wife an ass, she will make you an ox.
妻をバカにすると結局自分がバカにされる。
A lazy ox is little better for the goad.
怠け者の牡牛は追い立てられても大して働かない。 =怠け者は怠け者。
wave a red flag in front of a bull.
牡牛の前で赤い旗を振る。 =むやみに刺激すること。
Go to law for a sheep and lose your cow.
羊のことで訴えて牛まで失う。 =やぶへび。
An old ox makes a straight furrow.
年寄りの雄牛は真っ直ぐに鋤く。 =年寄りは経験豊富で良い仕事ができる。
Such beef, such broth.
安物の牛肉ではまずいスープしかできない。 =親が親なら子も子。
You may play with a bull till you get his horn in your eye.
牡牛といつまでも遊んでいると目に角がささる。 =いいかげんにしないと痛い目にあうよ。
An ox, when he is loose, licks himself at pleasure.
牡牛は放されているとき、楽しんで自分を舐めている。 =独身でいるのが気楽でよい。

