日本の企業社会 (109)
今回のゼミ合宿では、ハウス食品、スズキ、ヤマハを見学した。それぞれの企業に対する学生の印象は…。
先日、恒例のゼミ合宿を行いました。今回は当日になって数名の欠席者が出ました。風邪を引いた者、家庭の事情で急遽行けなくなった者、身勝手に就職活動を優先した者でした。携帯電話という「文明の利器」によって、ぞれぞれ連絡がついて、早いうちに旅館にキャンセルの一報ができたので事なきを得ましたが、それぞれ、それなりの理由があるにせよ、最近の学生の集団行動への「淡泊さ」を改めてみた思いがしました。
それはともかくとして、今回は、ハウス食品、スズキ、ヤマハの3社の工場を訪問しました。それぞれ、食品、自動車、楽器の大手メーカーとして知名度も高い企業ですが、製品特性が相互にまったく異なっており、その意味で、文字どおり三者三様の態様を見せてくれたこともあって、学生の興味も一段と高まったようでした。
まず、ハウス食品では、筆者もバンクーバー滞在に際して日本から必ず携帯しているレトルト・カレーの製造工程などを見学しました。何よりも学生を印象づけたものは、工場に働く従業員の意外なほどの少なさでした。同社では、最新の設備と技術を取り入れており、たとえば、具材の自動計量器具やレトルト釜による加圧加熱殺菌などのオートメーション化に学生は驚いたようでした。また、工場内を走る排気ガスや騒音のまったくない無人の電気自走車に特に留学生がいたく関心していました。
また、ハウス食品は数年前から取引企業(卸、小売店)とのパートナーシップの強化に努め、協働で工程改善などを試みており、その結果、商品の需要予測から販売計画、生産計画、資材調達計画の立案までを連動させて、在庫の圧縮や賞味期限切れなどで出荷できなくなった不良在庫の廃棄費用も半減させたことが担当者から報告されました。
次のスズキでは、四輪車の製造工程を見学しましたが、プレスによってできた部品を産業用ロボットによってつなぎ合わせ、車体をつくる「溶接」工程では従業員の介在がきわめて少ないのに対して、塗装工程が終了した車体にミラーや内張り・メーター盤などが組み付けられる「組立」工程では逆に従業員の数が多いという明らかなコントラストを直接、目にして、学生は深く感じ入っていました。全体的にみて、ハウス食品と比べて従業員が少ないことが、学生の印象に残ったようでした。
また、スズキでも、外部とのコラボレーションが説明されました。たとえば、エンジンは県内にあるスズキの他の工場で生産され、プレスまたは塗装段階でエンジンが発注され、1日に7回、工場に納品されるとのことでした。ともかく、部品メーカーにはリアルタイムで生産状況を伝達し、コラボレーションの実を上げる取り組みがなされています。
最後に、ヤマハでは、ピアノの製造工程を見学しました。ちなみに留学生にとってはスズキほどはヤマハの知名度は高くなく、事前に企業研究した学生はヤマハが楽器だけでなく、オーディオ・情報通信機器や半導体、システムキッチンやシステムバス、洗面化粧台などを製造・販売していることもあって、楽器の製造・販売が主要事業(現在、売上げの60%強を占めています)であることを必ずしも理解していませんでした。
しかし、ピアノの製造工程で、非常に専門的な技巧を必要とする「調律」(ちなみに、日本の一般家庭の場合、最低でも一年に一回の調律が推奨されています)や、弾き心地を整える「整調」(アクション部分は6000部品から成り、「ピアノの心臓」と呼ばれており、すべて人間の手によって時間をかけて行われます)、変形してしまったハンマーの形状を整え、硬さを整える「整音」では、何よりも、人間の手や感覚が必要不可欠で重要なことを知らされて、肝心なところで機械よりも人間の力に大きく依存することを聞いて、「安心した」という感慨をもらす学生が少なくありませんでした。
ともかく、チューニングピンをピン板に取り付ける作業や、アクションを慣らし、実践精度を確認するため、自動打鍵機を使い1つの鍵盤に付き、数百回も打鍵する作業、自動打弦機で何百回も鍵盤を叩き、木と金属の微妙な動きを馴じませませる作業は自動化されていましたが、それ以外のほとんどは職人の手によって一連の作業が行われていました。
また、シーズニングという工程も特徴的でした。ここでシーズニングとは、一定の環境下で一週間ほど放置して、弦やアクションを慣らす(安定させる)ことですが、アクションを慣らし、実践精度を確認するため、自動打鍵機を使い、一つの鍵盤につき300回づつ打鍵するとのことでした。